人生会議
「人生会議」を知っていますか?
人生会議は”アドバンス・ケア・プランニング”とも言い、もしものときに備えて今後の医療や介護・ケアについて皆で話し合っていくことを指します。話し合いには本人、家族、医療従事者ほか、さまざまな関係者が参加します。その人が大切にしていることを皆で共有し、希望する医療や介護・ケアを受けられるようにすることが人生会議の目標です。
人生会議の話し合いの内容をまとめたものが、事前指定書になります。そのなかに、今後受けたい、または受けたくない医療や介護・ケア、希望する療養場所などについて記載します。
自分で意思決定することが難しくなった時に頼る人や、もしものとき、心肺蘇生を受けたいかどうかについても話し合います。
自分が何を大切に思っているのかを考え、それを皆に分かってもらうことで、自分にとって最善の医療や介護・ケアを受けることができます。ぜひ人生会議で、少しずつでも今後のことを皆で話し合っていきましょう。
もしのとき
人生にはさまざまなタイミングで、いろいろな”もしものとき”が訪れます。それが命に関わる”もしものとき”であったとき、どうしていきたいか? ちょっと考えてみましょう。
1)予期せぬ事故や病気で、突然の意識不明・・・
ある日予期せぬ事故や病気で突然意識不明となり、病院に運ばれたが、医師から回復するかどうか分からないと言われたとき・・・
2)病気や老衰での終末期・・・
病気や老衰で療養中、徐々に全身状態が悪化し、意識不明となったとき・・・
あなたは、心肺蘇生(心臓マッサージ、挿管・人工呼吸)を希望しますか?
あなたの家族や大切な人は、あなたの希望を知っていますか?
医師から回復が難しいかもしれないと告げられ、突然心肺蘇生を行うかどうかの判断を迫られたとき、おそらくあなたの家族や大切な人は、あなたが意識を取り戻すことができないかもしれないと聞いて、とても不安になり、混乱して、落ち着いて冷静に判断することが難しいでしょう。
”生きていてほしい””苦しまないでほしい”
あなたはどう思っていたんだろう?
あなたならどうしたいんだろう?もし、あなたの希望を知っていたら…
あなたの気持ちを話し合う機会があったなら・・・
もしかしたら、こんなに悩むことはなかったのかもしれない・・・
あなたが、あなたにとって最善の医療や介護・ケアを受けられるように、あなたの家族や大切な人が、安心してあなたの代わりにあなたのことを決められるように、もしものとき、あなたがどうしたいか、人生会議で話し合ってみましょう。
人生会議で話し合うこと
1.あなたにとって、大切こと
あなたにとって大切なこと、気がかりなことは何ですか?人生の希望や目標はありますか?どんなふうに生きてきた、どんなふうに生きていきたいと考えていることはありますか?
2.今後受けたい医療・介護ケアの希望
これまでに身近な人が病気になったり、最期を迎えた経験はありますか?そのときあなたはどう感じましたか?自分ならどうしたいと思いましたか? もし自分が病気になったら、こんな医療や介護・ケアを受けたい(受けたくない)、こんな最期を迎えたい(迎えたくない)と、思ったことはありますか? それはなぜですか?
3.信頼できる人(代理意思決定者の選定)
誰と一緒に人生会議を行いたいですか?
もし意思決定(意思表示)できなくなったとしたら、自分の代わりに意思決定をお願いしたい人は誰ですか?
自分の代わりに意思決定をしてほしいことを、その人に伝えていますか?
どんなふうにしてほしいと伝えていますか?
*代理意思決定者は、家族(配偶者、子、きょうだい、親など)以外の友人や、 医療・介護者でも構いません。
*意思表示・意思決定を代理で行ってほしいことや、どんなふうにしてほしい かを、理由も含め十分に伝えておきましょう。
4.話し合いをまとめる (文書の作成)
人生会議では、話し合うだけではなく話し合った内容を書きとめておくことも、大切な作業の一つです。
代理意思決定者を含む話し合いに参加した人たちと一緒に、今のあなたの希望をまとめておきましょう。そして、これからも何度も話し合い、その都度書きかえていきましょう。
積極的な医療処置についての希望(心肺蘇生、終末期における積極的医療)
1) 予期せぬ事故や病気で突然の意識不明・・
2) 病気や老衰で終末期が近づいたとき・・・
あなたは、上記の状態になったときに、心肺蘇生をはじめとする、積極的な医療処置を受けたいかどうか、考えたことはありますか?
1.心肺蘇生(心臓マッサージ、挿管・人工呼吸)
2.終末期が近づいたときの積極的医療(点滴の栄養、経管栄養、輸血など)
心臓マッサージとは
心臓が止まったときに、胸骨を強く圧迫することで全身に血液を送ります。心臓マッサージをすることで、脳などの重要臓器が酸素不足になるのを防ぎます。救命を望むならば、一刻も早くそばにいる人が行う必要があります。しかし、医療者が行っても肋骨骨折・肺挫傷・肝損傷・心臓損傷を起こす可能性があり、痛みを伴う処置です。
昇圧剤とは
血圧が低下したときに、一時的に心臓や血管を刺激して血圧を上げる薬です。太い血管から薬を投与する必要があるので、首や鎖骨の下の血管(中心静 脈)に点滴を入れます。長期に昇圧剤を投与した場合、血管が強く締まり続けることで、手足の指が徐々に壊死していく可能性があります。
挿管・人工呼吸とは
呼吸が止まったときに、口から気管にチューブを入れて(挿管して)、呼吸を補助する方法です。
最初は人の手で呼吸を補助しますが、すぐに自発呼吸(自然の呼吸)が戻らない場合は人工呼吸器につなぎます。その後も十分な自発呼吸が戻らないことがあり、その場合は人工呼吸器を外すことは基本的にできません。人工呼吸器を使用している間、チューブの違和感を軽減するために薬を使って痛みを取りながら眠らせることがあります。仮に起きていても声は出せず、意思疎通が困難な状態になります。チューブがあることで口の中に潰瘍ができる場合があり、長期(1週間以上) に人工呼吸器を使う場合は気管切開を行います。
心肺蘇生を行う場合は、昇圧剤投与・心臓マッサージ・挿管・人工呼吸器管理、これらすべてを必要に応じて行います。 どれか一つだけでは意味がありません。もし、一つでも心に引っかかるようなら、もう一度医師や看護師から説明を受け、信頼できる人と相談をしてください。
心肺蘇生後の状態について
心肺停止した人に心臓マッサージなどの心肺蘇生を行うとき、スタッフはその人が以前と同じ生活が送れるまで回復することを願いながら処置を行っています。 しかし、その人が回復できるかどうかは心肺蘇生を始めた時点では分かりません。元通りの生活が送れるまでに回復する人もいれば、何らかの後遺症(障害)が残る人、人工呼吸器を外せない人、意識が回復しない人、そして、残念ながらお亡くなりになる人もいることを、知っておいてください。
「終末期」について
終末期とは、病気や老衰が進行し、回復が望めず、死を迎える日が近づいてきている状態のことをいいます。 しかし病気によっては、いつからが”終末期”なのか判断しにくいことがあります。特に心不全や呼吸不全、認知症や老衰などは、”終末期”がいつなのか判断が難しく、状態が悪化しても”終末期が近づいている”としか言えないのです。
終末期が近づいたときの積極的医療
水分・栄養補給;口から食べれないとき
点滴(末梢点滴、中心静脈点滴)
メリット:脱水の改善や電解質の補正、一時的なカロリー補給ができます。病院だけでなく、自宅や施設でも受けることができます。
デメリット:投与量を増やすと、むくみが出てきたり痰の量が増えます。胸水や腹水も増えていきます。末梢点滴では十分な栄養をとれません。中心静脈点滴は高カロリー輸液(栄養の多い点滴)が可能ですが、自宅ではできません。感染を起こしたり、点滴の管を入れるときに出血や気胸などの合併症を起こす可能性があります。
経管栄養(経鼻胃管、胃ろう)
経鼻胃管は鼻から胃に細い管を入れる方法です。胃ろうはおなかに穴を開けて、胃に直接栄養を流す方法です。
メリット:胃腸を使うのでより自然な投与法です。胃ろうは家や施設でも使えます。
デメリット:経鼻胃管は頻繁(約2週間ごと)に入れ替えが必要です。違和感で自己抜去する可能性があり、身体抑制を必要とすることがあります。家や施設では対応できない場合があります。 胃ろうでは手術による身体への負担があります。造ることができない場合もあります。定期的(約半年ごと)に管を入れ替える必要があります。
輸血;貧血のとき、昇圧剤;血圧が低いとき
輸血(末梢点滴)、昇圧剤(中心静脈点滴)
メリット:一時的に状態が改善する可能性があります。
デメリット:終末期では救命ではなく延命処置となります。輸血では心臓に負担がかかり心不全になることがあり、昇圧剤では手足の指が壊死したり臓器虚血が起こることがあります。一般的に家や施設では行えない処置です。
緩和ケア
緩和ケアとは”病気に伴う心と体の痛みを和らげること”です。
不安や痛みを軽減し、生活上の問題を含むさまざまな苦痛に対応することで、生活の質を高めます。今後の治療や療養場所を決めるような、大切な話し合いにおけるサポートも行います。
緩和ケアが行われることで、病気の経過に良い影響を与えることが分かっています。そのため以前は終末期にのみ行われてきましたが、現在は病気の治療と同時に行われています。
一方、終末期の緩和ケアでは”積極的な医療処置”を控えることがあります。それは”積極的な医療処置”が終末期の患者においては、ときに苦痛につながることがあるからです。
緩和ケアでは、生命を尊重し死を自然の過程と認め、死を早めたり引き延ばしたりせず、死を迎えるまで患者が人生を主体的に生きてゆけるよう支えます。
がんの終末期に緩和ケアを専門的に受けられる場所として、緩和ケア病棟があります。2020年現在、沖縄県内には6カ所に緩和ケア病棟があります。
また、沖縄協同病院では緩和ケアチームが治療中の患者をサポートしています。診断時から終末期まで継続して緩和ケアを行い、より良い生活が送れるよう努めています。
さいごに
いつか訪れる”もしものとき”にあなたが最善の医療や介護・ケアを受けるために、あなたの大切な人が安心していられるように、あなたが大切に思っていることを人生会議で聞かせてください。
あなたらしく生きてゆけるよう、希望がかなえられるよう、サポートいたします。